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『コーチング 〜夢がよみがえる、そして実現する〜』
出典:「人材教育」(JMAM人材教育)2002年12月号
エグゼクティブ・コーチ 平本相武

コーチングに活かされるさまざまなアプローチ

コーチングの盛んな米国では、30校近いコーチングスクールが国際コーチ連盟に登録されているという。筆者は米国で、さまざまなコーチング流派との交流を通して、多様なアプローチを学んできた。今回は、それらの手法のうち筆者自身もよく活用する8つのアプローチを紹介したい。

現在、米国にある国際コーチ連盟には30校近いコーチングスクールが登録されており、相互交流も盛んだ。 しかし日本で紹介されているのは、そのうち Coach University 系のコーチ21とCTI (Coaches Training Institute)系のCTI Japan の2校しかなく、また、交流もほとんどない。そのため日本では、コーチング技法のごく一部しか紹介されていないのが実状である。

筆者は米国で、さまざまなコーチング流派との交流を通じて、多用なアプローチ方法を学んできた。

例えば Newfield Network というスクールでは、コーチングする切り口を「ことば」に限定せず、「からだ」、「感情」の3つの方面からアプローチする。ことばで行き詰まったら、からだを動かしたり、感情表現したりする。 今回は、これまでのコーチング技法の枠にとらわれず、著者が実際によく利用する8つのアプローチを紹介しよう。

●サイコドラマ
サイコドラマは、J.L.モレノ(1889〜1974)によって創始された。本来は、自発的な即興劇などを用い、心理療法的な効果を目的とする。ここでは、クリエイティブな視点から、「サイコドラマ」をコーチングに応用した5つの手法を紹介する。

@-1 場面を演じる
この手法は、クライエントが思い描いている「ビジョン・価値観」が実現した場面を演じるもので、特にグループ・コーチングの際に有益な方法だ。 「ビジョン・価値観」がはっきりしている場合、より具体的なイメージを確立するために取り入れるとよい。

某企業の部長であるA氏のビジョンは、事業部の採算性を向上し、社内独立を果たすことだった。

A氏がこのビジョンに対して思い描いた“実現の場面”は、社内独立後、社員を前に挨拶するシーンである。ミーティング・ルームに社員が集まり、A氏が後から室内に入ってくる。壇上に上り、大勢の仲間の前でA氏は第一声を発する……。

グループ・コーチングで、この場面を演じる場合、A氏以外の参加者に新会社の社員役を振り当てる。皆の前に立ったA氏に、「ここに立った気持ちはどんな感じですか?」「どんな風景が見えますか?」等の質問をし、より具体的にイメージを膨らませていく。

@-2 ジオグラフィー
これは、職場や家庭の人間関係における“心理的な距離”や“位置関係”を、実際に人や椅子などを配置して表現するものである。人間関係といった観念的な位置関係を、目に見える形に置き換え、物理的なイメージで捉え直すことで、問題をより明確に把握し、解決の糸口を探すのである。

例えば、娘との関係がうまくいっていないと感じるB氏は、「娘さんはどこにいますか?」という質問に対し、「ずっと離れて座っている」と答えた。そこで参加者の1人に実際に離れた場所に座ってもらった。

B氏は続けて「しかも、娘はそっぽを向いていますね」という。そこで娘役の参加者にはそっぽを向いてもらった。

このように配置してみて初めて、B氏は「いままで娘の気持ちをこちらに向けようと努力していたが、娘はもう年頃で、それは無理なことだ」と気づいた。その結果、「娘が離れて寂しいと感じていたが、それならば、女房との距離をもう少し近づけるよう努力したほうがいい」と考えるようになった。

@-3 エンプティー・チェア
クライエントの隣に椅子を1つ用意し、そこに「10年前の自分」が座っているとイメージする。エンプティー・チェアを通して、その自分と会話をしながら気づきを深めていく。

例えば、「10年前の自分はどんな様子に見えますか」と質問する。クライエントが「まだケツが青くて生意気そうだけど、やる気マンマンで目が輝いている」と答えた後、今度は10年前の自分の席に移動してもらう。「そこからいまの自分を見るとどんなふうに見えますか」「疲れているようですね。

目もどんよりしているし」「いまの自分に向かって言葉をかけるとしたら、どんな言葉をかけますか」…等々、 10年前の自分の席といまの自分の席に交互に座りながら、“会話”を進めていく。さらに、「20年後の自分」の席をつくって、20年後の自分から言葉をかけることもある。

本来、エンプティー・チェアに座ってもらう(と想定する)相手は自分でない。カウンセリング場面では、言いたいことを言えなかった父親や優しい声をかけてあげたかった母親などである。

コーチングでは、職場の同僚、家族、友人など、コミュニケーションがうまくいっていないと感じている相手を想定し、同様の手法で会話を進めることもできる。そこから、それまでは気づかなかった相手への思いや気持ちなどが見えてくることも多い。

@-4 ロール・プレイ
部下がどうして、そんな行動をするのか理解できない。女房が何を考えているのかわからない。自分は一生懸命やっているのに、どうも顧客の反応がわるい。そんなとき、実際、問題となる場面を再現して、相手役の席に座ってやりとりすることで、相手がどう感じていて、どんな思いなのか、もしくは、相手の目から見て、自分をどう映っているのかが分かるようになる手法である。

@-5 現在の位置と実現している位置
@-1で紹介したA氏に再び登場してもらおう。ビジョンを実現した場面を“体験”したA氏に、今度は実現している自分の位置と、現在の自分の位置を示してもらう。すると、ビジョンを実現した自分は部屋の前方にいるが、現在の自分はずっと後方にいるという。

さらに、現在の自分は実現した自分を「見上げている感じ」「実現した自分の場所は光が当たっているが、現在の自分の場所はそんなに光が当たっていない」といったように、その立場の違いを、より詳しく言葉で表現する。

このスキルの目的は、ビジョンを実現した自分と現在の自分の間にある観念的な距離を、物理的な距離に置き換えることである。実際にA氏が示した現在の位置から、実現している位置にまで歩いてみることで、途中のプロセスや障害、その道のりを経てビジョンに至る喜びなどを体験することができる。

ビジョンの位置に向けて物理的に足を動かし、最初に第一歩を踏み出した瞬間、「その第一歩、その行動は、現実ではどんな行動ですか?」と聴くことで、ビジョン実現への具体的ステップや手段をみつけるヒントになる。

●アートセラピー

次にアートセラピーをコーチングに応用してみよう。本来、アートセラピーは、心理療法の場面で、精神状態の「診断」と描画に伴う心理的浄化による「治療」を目的とする。ここでは、童心に帰ってお絵かきすることで、言葉にできないビジョンや価値観を引き出すのに有効な手段として使う。

8つの方法について解説するが、いずれの場合も大切なのは、リラックスして、気持ちよく、没頭して描けたかという点である。上手に描くことに捕われず、自由に描いて欲しい。

A-1 いまの気持ちを描く
いまの自分がどんな状態にあるのか把握するために、「いまの自分」を描いてみる。家庭、仕事、その他の趣味の場面など、クライエントが抱えるさまざまな人間関係やその重要度などが現れてくる。

A-2 実現している場面を描く
サイコドラマと同様、ビジョンを実現している場面のイメージをより強くするために、実現している場面を描くのも有効な方法である。

A-3 昔(子供の頃など)、楽しかった場面を思い出して描く
隠れたビジョン・価値観を引き出すステップの1つとして、これまで楽しかった経験を描いてみよう。大切なのは描かれた場面から、「何が楽しかったのか」「何が自分にとって大切だったのか」といった、クライエントが楽しいと感じたエッセンスを抽出することである。

A-4 子供の頃なりたかったものを描く
A-3と同様、隠れたビジョン・価値観を引き出す手法である。重要なポイントもA-3同様「エッセンス」を見つけ出すことだが、その具体的な例を紹介しておこう。

「野球選手になりたかった」というC氏とD氏がいる。2人は野球選手として活躍している自分を描いたが、その絵は全く異なるものだった。C氏が描いたのは、どんなに難しいボールでもジャストミートできる「名バッター」であった。そのことから、C氏にとって重要なエッセンスは、「困難な状況を自分の力でブレイクスルーしていく」というものであることが見えてきた。

一方D氏は多くの人に賞賛されている「ヒーロー」を描いた。そのことから、D氏にとって重要なエッセンスは「人から評価され、賞賛されることである」ということがわかったのである。

A-5 「ライフ・チャート」を描く
本連載第2回で、「ライフ・チャート」を紹介した。これは、「自己成長/学び」「楽しみ/娯楽」「生活環境」「健康」「仕事/他者への貢献」「お金」「友人/対人関係」「大事な人/家族」の8つの項目について、その満足度を示すものであった。ここでは、一枚の画用紙に、この人生の8つの項目1つひとつについて絵を描く。

できあがったものを見ると、自分の全体像といったものをひと目で把握することが
できるようになる。

さらにそのなかから、もう少し描きたいというものを1つ選んで、一枚の紙に描いてみよう。どんなことが自分にとって大切なのかを探る糸口となるはずだ。

A-6 2人またはグループで絵を描く
画用紙をはさんで2人で向かい合い、絵を描いてみる。その際、いっさい話したり、コミュニケーションを取ったりしてはいけない。どんな絵ができるだろうか? 普通は相手に遠慮して、なかなか紙の中央に絵を描くことができない。また、できあがった絵は、関連性のない2つの絵である。

次に、今度は別の人と同じように絵を描いてみる。その際話したり、コミュニケーションを取ったりしてはいけないという条件は同じだが、「できるだけ1つの絵になるように意識してください」と声をかける。

すると、どのペアも不思議と1つの絵ができあがる。このことから、たとえコミュニケーションがなくとも、「1つの絵を描く」という意図を共有することで、それが可能になるという事実を実感することができる。

またグループ・コーチングの際に、大きな一枚の紙に参加者全員で絵を描くことも効果的だ。これを職場でも応用することで、ビジョン共有の重要性が認識され、チームワークを大きく改善することができる。

A-7 我慢していること、嫌なことを絵に描く
現在我慢していることや嫌だと感じていることを絵に描いてみよう。職場でガミガミ怒っている上司、スシ詰めの満員電車、喧嘩をしている夫婦など、さまざまな場面が思い浮かぶだろう。絵ができあがったら、ビリビリに破って投げつけてみる。

そして次に、自分を元気にしてくれるものや、癒してくれそうな絵や落書きを描く。この作業により、気持ちをリフレッシュさせることができる。また、何が自分のエネルギーを消耗させ、何が自分を癒してくれるのか、に気づく。

A-8 コラージュ
自分のビジョンをコラージュしてみよう。「人に役に立つ仕事がしたい」というビジョンを持つあるクライエントは、それを象徴するものとして菩薩像を選んだ。菩薩像の写真を紙の中央に貼り、さらに自然のなかでウォーキングしたいという気持ちを表現する自然の写真、人に奉仕したいという気持ちを表現するボランティアの写真などを貼っていく。

完成したコラージュは、自分のビジョンをひと目で見て取ることができるものになる。これを小さくコピーして持ち歩いてもいいし、いつも目に付く場所に貼ってお
いてもいい。常にコラージュを目に留めることで、ビジョン・価値観を忘れないようにすることができる。

●ソリューション・フォーカス・アプローチ

筆者が師事した米国ミルウォーキー在住のインスー・キム・バーグによるソリューション・フォーカス・アプローチの代表的な4つの技法を紹介する。このアプローチは本来、心理療法の一派として創始された。問題を前提とせず、ダイレクトに解決にフォーカスするという点はコーチングに活かされる。

B-1 ミラクル・クエッション
夜寝ている間に奇跡が起きて、あなたの問題や嫌なことがすべて解決してしまいました。朝起きるとあなたはその奇跡に気づきますが、どのようにして気づきますか? というのが、ミラクル・クエッションである。

ある人は、いつもは起きるのが辛いのに、スッキリ目覚めると答えるかもしれない。またある人は、奥さんがニコニコと機嫌よく起こしてくれると答えるかもしれない。またある人は会社に行くのが憂鬱だったが、元気よく会社に到着し、同僚に気持ちのいい挨拶をしていると答えるかもしれない。

いずれの場合もその答えのなかに、「そのような状態になる、あるいはそのような態度を取るためには、どうしたらいいか」ということを考える糸口がある。

B-2 例外探し
クライエントが問題を抱えながら、その解決が絶対に不可能だと思っている場合などに、この例外探しのクエッションを利用して、“抜け道”を見つけ出すことができる。

ある企業のシステムエンジニアであるF氏は、彼が所属する部署のコミュニケーション不足に悩んでいた。そこでは部下と上司のコミュニケーションが全く取れておらず、基本的に優秀な部員たちが、さまざまな業務を勝手に解決してこなしているという。

「本当に、全くコミュニケーションがない」というF氏に、「それでもこれまでで1回くらいはコミュニケーションが成立したこともあったんじゃないですか?」と質問した。「確かに1回くらいは、あるはずですよね」とF氏も賛同したので、「それではどんな時だったか思い出してください」とさらに質問を進めた。

するとF氏は、数カ月前に大きなトラブルが起きたときのことを思い出した。その時は、上司と部下が綿密に連絡を取り合い、迅速に対応することができたという。結果的にF氏はその答えを糸口として、コミュニケーション不足を解消する方法を考え出すことができた。

B-3 スケーリング・クエッション
目標が大きく、また漠然としていて、具体的な行動に結びつきにくいときに、このスケーリング・クエッションを利用する。

次の異動で課長になることが決まっているG氏。彼は「部下の能力を見極めて、適材適所ができる課長になりたい」という目標を持っていた。より具体的なイメージを得るために、「あなたから見てそれができている課長はいますか?」と質問すると、「S課長ならできている」と答えた。

S課長は部下とよく話しをしているうえ、部下の仕事ぶりを何気なくよく見ているという。さらに、「それでは適材適所ができている状態を10とすると、S課長はどれくらいできていますか」と質問すると、S課長は8であり、自分自身は3だという。また、自分は7までできれば合格だという。

この段階で、「それでは3から4に一段階だけ上げるとしたら、どんなことができますか?」という質問をした。するとG氏は、「いきなり部下全員とじっくり話をするのは難しいから、1人あたり週一回くらいは、個人的に会話したい」と答えた。すなわちそれが、G氏の具体的な行動目標となるのである。

B-4 サバイビング・クエッション
コーチングを進めていると、時には“八方ふさがり”のようなケースに遭遇することがある。

例えば部下はやる気がなく、会社もいつ倒産してもおかしくない状態だ。社長本人もすっかり意気消沈している。そんな時、「それでもいま現在倒産せずに、生き残っているのはなぜですか?」と質問をする。

すると、「お世話になっている銀行のTさんにだけは不渡りは出せないと思って……」と、自分がいままでがんばってきた理由を思い出すことができる。このサバイビング・クエッションは、非常に辛い状況にある時に、なんとかもう一度「がんばってみよう」という気持ちを起こさせる際に有効である。

●NLP(神経言語プログラミング)

NLPは1970年代の初頭、J.グリンダーとR.バンドラーの協力から始まった。NLPは、心理療法を始め、あらゆる分野の優れた人々を観察、研究し、彼らが「どのようにして」優秀性を発揮しているかを見出し、だれもがそれを学び実践できるように開発された。

C-1 視覚・聴覚・触覚
情報の受信・発信のパターンは人によって異なるが、大きくわけると、視覚、聴覚、触覚の3つのタイプに分けることができる。視覚タイプの人は見えるモノを中心に、聴覚タイプは聞こえるモノを中心に、触覚タイプは触れるモノ(触った感じや雰囲気など)を中心にしてそれぞれコミュニケーションを行っている。

また、さまざまなイメージを喚起したり、何かを思い出したりする際も、それぞれの知覚タイプに従った形で思い出したりしている。視覚、聴覚、触覚3つの要素はだれもが混ざり合って持っているが、そのうち1つのタイプに偏っているのが普通だ。

例えばある人が「将来はハワイに住みたい」と言ったとする。その人が視覚タイプならば、「そこではどんなものが見えますか」「どんな色をしていますか」「どんな様子ですか」というように、主に視覚情報に関する質問をすることで、イメージを広げることができる。

しかしその人が聴覚タイプの場合は、「見えるモノ」を聞いてもイメージが膨らんでこない。むしろ「どんな音が聞こえますか」「あなたは何と言っていますか」「だれかが何か言っていますか」といったように、聴覚情報に関する質問を投げかけるべきである。

コーチはクライエントがどのタイプに属するのか早めに把握し、そのタイプに沿って質問を進める。無意識にやっていると、コーチ自身の知覚タイプに沿った質問をしてしまう。もし、クライエントのタイプに沿ってないと、効果的にコーチングが進まない。

C-2 ピーク・パフォーマンスのモダリティー
うまくいっている時(ピーク・パフォーマンス)の見え方、聞こえ方、感じ方などを意識的に再現することで、ピーク・パフォーマンスを引き出す技法である。

例えば、パイロットのH氏は操縦の実地テストを控えていた。緊張してしまい、うまくできるかどうか不安を感じているH氏に、「それではいままで一番うまく操縦できた時のことを思い出してください」と言った。

「その時、周囲の様子はどんなふうに見えていましたか?」と質問すると、「すべての計器が視界のなかにあるうえ、1つひとつがよく見えている。ちょっと引いたところから見ているようだ」と答えた。

「その時、どんな風に音が聞こえましたか?」「エンジン音が、安定した振動と共に、低く聞こえています」「その時の姿勢はどうでしたか」「頭の上から空に向かって糸で引っ張られているように、自然に背筋が伸びています」と質問を進め、H氏のピーク・パフォーマンス時の身体状況を明らかにした。

さらに、次に説明する「アンカリング」を使って、任意の時に同じ身体状況を再現する練習を行う。結果としてH氏は操縦テストの際、ピーク・パフォーマンスを引き出し、落ち着いてテストをクリアすることができた。

C-3 アンカリング
これは、錨(アンカー)を下ろすように、ある特定の意識状態とある特定の刺激(サイン)を結びつける技法だ。

例えばグーを握る、深呼吸をするといったサインによって、ピーク・パフォーマンスや忘れたくない事柄などを自動的に思い出し、いつでも再現できるよう条件づけするのである。

非常に怒りっぽい性格のIさんは、その性格をなんとかコントロールしたいと思っていた。彼女に「ゆったりしてリラックスした気分の時はどんな時ですか?」と聞くと「飼っている猫を撫でている時」と答えた。

そこで、猫を撫でている動作にリラックスして落ち着いた気持ちを条件づけ、その動作をすることで落ち着いた気持ちを再現できるようアンカリングした。結果としてIさんは、怒っている時にも「撫でる」という動作を使って、落ち着いた気持ちを取り戻すことができるようになった。

C-4 信念の書き換え
人は、自分自身と他者や世の中に対する“思い込み”のなかで生きているといえる。「信念の書き換え」は、捨て去りたい、あるいは変えたいと思っている“思い込み”を書き換え、より望ましい信念を手に入れる技法である。

M氏は地方のある高校教師。彼の信念として、「人に迷惑をかけてはいけない。そのために自分勝手になってはいけない」というものであった。そして、その延長として、本人も知らないうちに、「自分は幸せになってはいけない。少なくとも幸せそうにしてはいけない」と信じるようになっていた。

彼自身、これは不合理な信念だと頭ではわかるが、40年近くそう信じて生きてきたので、変えたいけど、もう変えられないという。そこで、この「信念の書き換え」。過去、彼が生まれていままで、「自分は幸せになってはいけない」と信じていることで、つらい思いや惨めな目にあったこと、悲惨で屈辱的な出来事を、どんどんからだ感情レベルで思い出してもらう。

現在、彼がそう信じることで、味わっている苦痛も再体験してもらう。そして、未来、5年後、10年後、20年後、この信念がどんどん強く大きくなって、どんな思いをするか、辛さを味わう。また、「自分は幸せになってはいけない」信じていることで、周りの人にどんな影響を与えるのか、周りの人はそんな彼といることで幸せになるのか、むしろ辛そうな彼といることで、余計にいやな思いをしているのか、他者の目からも見てみる。

自分が不幸そうにしていることで、人に迷惑かけないどころか、余計に迷惑をかけていることを実感した彼は、その信念にはもう我慢できなくなる。その後、「自分が幸せそうに暮らすことが、他の人や特に彼の教え子達にいい影響を与える」という信念を実感するまで、5年後、10年後、20年後を想像する。この一連のプロセスは30分の電話コーチングを通して行われた。

否定的な信念を持っていたがために苦しい思いをした経験はだれしもあるだろう。「信念の書き換え」では、そういった過去の苦い経験を思い出し、5年後、10年後、20年後もその信念を持ち続けていたらどうなるか、感情レベルで体験する。そして、その信念を本当に捨てたいと実感するよう援助するのである。

C-5 行動の入れ替え
人はからだ感情レベルで、「止めたい行動」イコール「苦痛」だと実感した時、だれが勧めてもその行動を止める。逆に、からだ感情レベルで「始めたい行動」イコール「快」だと実感すれば、放っておいてもその行動を始める。

「つらいけど禁煙しなきゃあ」といっている時点で、「タバコ」イコール「苦痛」では
なく、「禁煙」イコール「苦痛」なので、必ず、挫折する。例えば、能力はあるのに、営業成績がいま一つ伸びないというJ氏がいた。彼の失敗の原因は主に「酒の飲み過ぎ」である。過去にも何度も酒で失敗してきたが、どうにも節制できない。
アルコール中毒一歩手前といった状態に陥ったJ氏は、アルコールを節制することを決心する。

そこでJ氏に「今日はちょっと飲み過ぎたなぁと思う時は、どれくらい飲んだ時ですか」と質問した。するとビール6本に、焼酎、ウイスキー数杯ずつという。次に、「それでは、いまから飲んでみましょう」とイメージのなかでビールを6本と焼酎、ウイスキーを飲んでもらった。「翌日になりました。

いまどんな気持ちですか?」「頭がガンガンします。吐き気もあります」「それでは今日もビール6本と焼酎、ウイスキーを飲んでみましょう」「いや、今日はいいです」「いえ、そんなことを言わずに飲んでください」といった形で、イメージのなかで毎日飲み続けてもらう。すると5日目になったときに、「いや、もういいです。もう本当に飲めません!ビールなんか大嫌いです!!」とJ氏は言った。

J氏はこの方法で、ついに酒を節制することができた。

ダイエットに関しても、「ダイエット」イコール「苦痛」である限り、うまくいかない。「どうしら、つらいダイエットを乗り切れるだろう?」ではなく、「どうしたら、楽しくシェイプアップできるだろう?」と問うたり、シェイプアップして、充実して幸せに過ごしている未来の自分をイメージすることでうまくいく。

●POP(プロセス指向心理学)

プロセス指向心理学は、スイスでユング心理学を研究していたアーノルド・ミンデルによって確立された。

西洋心理学と東洋思想の融合を目指したトランス・パーソナル心理学の心理療法の1つで、症状の除去や問題の解決ではなく、いまここで体験しているプロセスを促進することで、クライエントの気づきを深めていく。それをコーチングに応用する方法はいくつもあるが、典型的な例として、クライエントが自身の抱えている障害や身体症状に成り代わって、そのメッセージを探る方法を紹介しよう。

最初に登場したA氏を思い出してもらいたい。彼のビジョンは事業部の採算を上げ、新会社として独立することだった。@-4では、ビジョンが実現した自分の位置と、現在の位置を再現した。ここではさらに、A氏が示した現在の位置から、ビジョンが実現しているという位置まで実際に歩いてもらう。A氏はすんなり歩けるだろうか?

実際に歩いた後に、「歩いてどんな感じがしましたか」と質問する。A氏は「何かこう、前に進めないように、肩を前から押さえつけられているような気がしました」と答えた。

次にコーチが実際にA氏の肩を押さえつけ、前に進むのを邪魔した。さらに「このような感じですか」「はい、こんな感じです」と、その体の感じを確認したうえで、A氏と“肩を押さえつける重み役”としてのコーチが交代し、A氏にA氏役のコーチの肩を押してもらう。そして、「あなた(重み)はどんなことを言っていますか」と聞くと、“重み役” のA氏は「『成功するとは限らないぞ』と言っています。『失敗したらどうするんだ、リスクが大きい』とも言っていますね」と答えた。

プロセス指向心理学は、これらのやり取りを通じて、クライエントの行動を制限している障害や症状のメッセージを明らかにするのである。

●リラクゼーション

緊張や不安に捕らわれているクライエントに対しては、まずリラックスが大事なこともある。自律訓練法や呼吸法を使ってリラックスできるよう誘導する。ここでは、2つの呼吸法を紹介しよう。

まずは、1・4・2カウント呼吸法。1の割合で「息を吸って」、4の割合で「息を止めて」、2の割合で「息を吐く」。例えば、4カウントで息を吸って、16カウントで息を止めて、8カウントで息を吐く。

この割合で呼吸すると、効率よく効果的に酸素が体内の血液のなかを循環し、身体的な健康を促進するばかりではなく、精神的にも安定してくる。毎日、10セット(吸う・止める・吐くの1クールを10回)朝晩続けるのがベストだが、特に不安が強かったり、プレゼンテーションなどであがりそうな場面の直前には役立つ。

次に紹介するのは、ブレス・オブザベーション。普段と同じ呼吸をただ見守るだけという手法。まず、普段、鼻で呼吸しているか、口で呼吸しているか、鼻と口の両方で呼吸しているか、確認する。

例えば、鼻で呼吸しているなら、鼻から入ってきたり出ていく普段と同じ呼吸を、ただ見守る。鼻の穴から入ったり出たりする空気に意識を向ける。意図的に深くゆっくり呼吸する必要はないが、自然とそうなれば、なるようにまかせる。引いては返すひとつながりの波のように、途切れることなく、鼻から出たり入ったりする空気を気づいている。呼吸は、意識を向けるのに最も安全な対象である。

何らかの考えやイメージに意識を向けると、時として、不安や恐れを抱いたりするが、呼吸に意識を向けていると、必ず落ち着いてきて安心する。この呼吸法のために特に時間を割く必要もなく、作業をしながらでも、ただ呼吸を見守ることはできる。さあ、いますぐ、この文章を読みながら試してみよう。

●内観法

内観法は日本の吉本伊信が創始した深い内省を促す方法で、浄土真宗の「身調べ」という求道法を現代人向きに修正したものである。

内観法では、本来、自分の母親から始めて、これまで接してきた家族や同僚、友人など1人ひとりについて、「してもらったこと」「して返したこと」「迷惑をかけたこ
と」の3点について考える。それを通じて、自分がいかに周囲の人にさまざまなことをしてもらっているか、またそれに対して自分はいかに何も返していないかということに思い当たり、悔恨の念にかられる。そして、感謝の念、自分は生かされているのだという喜びや安らぎをあじわう。

中堅の証券会社営業マンのY氏。コーチングでは、彼は、いつもだれかの不満をいっていた。上司は身勝手で分からず屋、部下は言うこともきかずやる気がない、お客も無茶な要求ばかり、家族も自分に理解がない、挙句の果てに彼女ができないのはだれも彼の魅力に気づかないからだと。

Y氏は確かに努力家で頭もいい。行動力もあって仕事もできる。ただ、どうも他者の好意や行動の善意を推し量れない。 そこで、次回への宿題として、身近の人から、「してもらったこと」「して返したこと」「迷惑をかけたこと」を書き出してくるようにしてもらった。

翌週、普段は人に対して攻撃的で批判的な彼が、落ち着いて神妙な面持ちで、話し始めた。いろんな人の何気ない好意のお陰でいまの自分があるのだということに気づいたという。そのことに気づいてなんとなく態度が変わった彼に対して、周囲の人も優しくなったような気がするという。

●イメージ・体・感情へのアプローチ

コーチングは基本的に、ことばによるコミュニケーションを通して行われる。しかし、ある人は、さまざまな場面で「イメージを膨らませ、実感する」ことが向く。また、イメージが必ずしも得意な人ばかりとは限らない。そんな時に、からだ、感情を刺激し、そこからコーチングを進めてみる。

例えば「あなたが楽しいと感じることは何ですか」と質問されたL氏は「ゴルフをしている時です」と答えた。ところが一向に、楽しそうな表情や、生き生きとした言葉が出てこない。そこで、L氏に立ってもらい、その場でゴルフのスイングをするよう促した。

実際に立って体を動かしはじめてやっとL氏は「いやぁ〜、ほんと〜に、ゴルフって楽しいんですよねぇ〜」と、顔を輝かせて話し始めることができた。このように男性は体を動かすことで、コーチングが進む人かもしれない。

ある若手で女性の経営コンサルタントは、もっと自信をもって堂々と顧客と折衝をしたいという。特に年配の企業家と話すときに、不安を感じる。 そこで、体のどのあたりに、特に不安を感じるかと尋ねてみると、胸のあたりだと。不安を感じる身体感覚をどんどんきいていくと、胸が重くて灰色でどんよりしていて、お腹の辺りがそわそわした感じだという。

逆に、自信があるときは、胸が軽く明るい透明に近い金色で、お腹の丹田の辺りで中心がとれ座っている感じ。その体の感覚や自信があるときの気持ちを思い出すことで、比較的に落ち着いて、年配の企業家と会話ができるようになったという。

今回は、コーチングをより効果的に進めるうえで役に立つ、さまざまな分野から取り入れたアプローチを紹介した。次回は、筆者がアンソニー・ロビンスから学んだステイト・マネジメントと呼ばれる、こころの状態は100%自分で決められる手法、について解説する。

コーチングに役立つ小さなテクニック

どの流派の方法というものではないが、コーチングの際に役立ついくつかのテクニックがある。最後の「タイトルをつける」は、ビジョンに向かって進む、その事柄全体について自分でタイトルを付けるものだ。タイトルをつけることで適切なイメージが定着し、常にビジョン・価値観を色あせさせずに持ち続けることができる。

 ・イメージする

 ・紙に書く

 ・図にする(特にジオグラフィーを図にする)

 ・絵にえがく

 ・人に話す

 ・位置を変える/席を変える

 ・たとえを使う

 ・タイトルをつける

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